娯楽と情報だけがラジオ番組ではなかった頃

ショートタイムでは無いラジオドラマを毎週放送している番組はNHK-FMの「FMシアター」しか知らないが、この番組の放送ラインナップを見る度に、96年まで放送されていたTBSラジオの「ラジオ図書館」という番組が懐かしく思い出す。「FMシアター」の方は聴取者の好みが反映されているのか、家族の絆をテーマにしたヒューマンドラマや、歴史の知られざる一面を扱ったドラマがラインナップの中心になっている。それはそれでいいのだが、「ラジオ図書館」の方は取り上げた原作のジャンルがもっと多岐に渡っていて、青春小説、幻想小説、ホラー、ブラックユーモア(筒井康隆もこの番組で知った)、海外の古典(O・ヘンリーの短編集が良かった)、SFと言った様々なジャンルを、客寄せパンダでは無い俳優による声の演技と、熟練のスタッフによる音響効果とセンスある選曲で毎週聴取者に届けられる番組は、今思い出しても夢のような番組だった。
私が10代の頃に聴いていたラジオは殆どTBSで、「ラジオ図書館」の他に好きだった「若山源蔵の東京ダイヤル954」も今は無い(番組内で放送していた「小沢昭一的こころ」は健在)。20代の頃にはFM系をよく聴くようになったが、FM-NACK5の斉藤千夏のDJとS.E.N.Sのテーマ曲が心地良かった「ハートビートナイト」も、津嘉山正種のナレーションによるショートストーリーが印象的な大人の音楽番組「クロスオーバーイレブン」も聴く事は出来ない。テレビとラジオが娯楽と情報をラインナップの中心にするのは理解出来るが、こういう番組を続けなくなった事に私は日本の放送文化の幼稚化を感じてしまう。TBSラジオは数年おきにラジオドラマを特番で流している。結構な事だが、原作は必ずベストセラー小説。スポンサーを付ける為の必須アイテムだが、この辺がギリギリの所なのだろう。