日本映画監督ワーストワン

現役の日本映画監督でワーストワンが誰かと聞かれれば、私は長谷川和彦と答える。何しろこの人は79年以来、一度も新作を撮っていないのだ。長谷川監督はデビュー作の「青春の殺人者」でいきなりキネマ旬報1位に選ばれ、次回作の「太陽を盗んだ男」も2位に選ばれた。二本とも未だに映画ファンの間で高い人気を誇っているが、私は「太陽」の方が好きだ。最近クライマックスを観返してみると、沢田研二菅原文太の台詞の応酬がモロに書き言葉だったとか、二人の格闘がゾンビ映画に見えたとかなどの古臭さは否めなかったが、作品の持つパワーは今でも色褪せていないと思っている。
しかしこの二本の成功で(興行的な意味では無い)彼は天狗になってしまったらしく、テレビで共演した角川春樹フランシス・コッポラに虚勢を張って、テレビを観た黒澤明に苦言を呈されたり、東映を代表するプロデューサーに依頼された脚本が無茶苦茶な出来だったりと、様々な逸話を残した。そして「武士の商法」でまず成功した事の無い若手の監督集団「ディレクターズ・カンパニー」を立ち上げたが、成功したのは相米慎二の「台風クラブ」などほんの数本で、自身の監督作は一本も無いまま「ディレカン」は頓挫。以来ライフワークと公言している「連合赤軍事件」の完全映画化は実現しないまま、二本の映画(「光の雨」と「あさま山荘への道程」)に先を越されてしまい、鮮度を失った。
今の日本映画界で最も優れた監督が誰かは知らない。少なくとも即答は出来ない。殆どの監督は出来不出来があり、中には一本も面白いと思えない監督も居る。そして井筒監督のように、他の映画人に対する暴言の数々がどうにも腹に据えかねる人も居る。しかし彼等は映画を撮っている。他者から何を言われようが、撮らない長谷川監督より悪く言われる人は居ない。彼は「連合赤軍」を撮らない理由をプロデューサーとの兼ね合いの問題にしたがっているようだが、彼は復帰のチャンスだった「リング」の3作目の脚本でまた不興を買ってしまった前科がある。それに若松監督は制作費を抑える為に警察に破壊されるあさま山荘を自分の別荘を壊す事で再現したのだ。私は別に映画化実現の為に家を売るべきだとか言うつもりは無い(現実にはそういう段階に来ていると思うが)。しかし色々な方法はあるのにそれを試す事もしないで、誰かからの出資を待っている姿勢を続けるのなら、監督を引退した方がいいと思う。