となり町戦争

「となり町戦争」という小説が個人的に駄作だと思うのは、戦争というテーマを作者が理解した気になって主人公に総括させて、町同士で戦争をする事が公共事業にもなっているという不条理な設定に説得力を持たせてないからだ。
主人公やヒロインが直接の戦闘を目撃せず、関係者や家族の死体を見ていない所は、日本人がテレビ越しでしか目撃しなかった湾岸戦争イラク戦争の比喩だろうし、税金などが知らずに使われたり、町民の犠牲のあとには復興事業が待っているという描写も、口で戦争に反対しても、終わったら恩恵に授かる人間は支持派と同じという事を示したかったのだと思うが、暴力というのは経験しなければ理解できない物だし、まして戦争を不条理小説で扱うなら相当の文章的鍛錬が必要だと思う。作者は実際に役場に勤めてたので、経験による知識は作品の肉付けになっているが、元ゲリラの上司など人物の奥行きには結び付いて無い。主人公とヒロインの濡れ場が箸休めというか唯一の見せ場だけど、その肉体関係も最初は条例で決まっている偽装結婚から始まり、最後は深くも浅くもならないで終わるなど、作者の自己満足的なキャラ設定は、女性も体だけの存在でしか無い。
この作品は、文学とライトノベルの中間のようなすばる文学賞を受賞したそうだが、アマゾンのレビューとかでも賛否がはっきり別れているし、それもさもありなんの作品だ。