「海の闇、月の影」が嫌いだ

30年くらい前に従妹から借りた「海の闇、月の影」というサイキック・バトル漫画を少し読んで、初めて少女漫画を楽しく読んだ記憶がある。だから全巻セットを中古で購入して、本棚にしまっていたのを約20年ぶりに1巻から読み始めたのだが、14巻の途中で読むのが嫌になってしまった。話がつまらなくなったからでは無く、主人公の双子の悪役担当の小早川流水に耐えられなくなったからだ。

この流水という少女は、古代遺跡から漏れたウイルスで体が侵されてからは嫉妬や憎悪などの感情を隠さなくなり、同時に超能力にも目覚めて、双子の妹の流風を殺して、彼女が好きになり、自分も愛していた陸上部の先輩を手中にしようとやりたい放題の殺戮を重ねる。極端にいえば彼女は自分以外には意志を持った人間は1人も居ない世界を作ろうとしていて、その為には同じ超能力を持った子供まで殺して、流風に詰め寄られても気にも止めていない。それでいて、途中で「手を掛ける方が一番ツライ」などと呟いたり、終盤には「私が怒りや嫉妬の感情がすぐ爆発するのはウイルスのせいだ」と言っているのだ。

私が不快だったのはこうした流水の苦悩の吐露が読者に対する言い訳に見えてしまい、彼女は自分の野望を最後まで持ち続け、流風を何度も死なせようとする。そして流風はアトムや鬼太郎のようにすぐに流水を許してしまうし、双子が好きになった青年は両親を流水に殺され、弟も流水に支配されているのに恨みの感情を持ってないかのように振る舞う。彼女だけでは無くウイルスを分析して世界を手にしようとするフィンランドの青年科学者とその一族も殺害を重ねるし、とにかく際限なく人が殺されて行くのだ。

中年になって読むと殺される側に感情移入するし、ウイルスの謎やそれを狙う側の人間のドラマも殆ど描かれていないのは、少年ジャンプ作品みたいにエンタメを重視した為だろう。当時の10代の読者は感動して読んだらしいが、私には感動できる要素は全く無い、というより流水への嫌悪感が作品の評価も低くしてしまったようだ。