「黄金を抱いて翔べ」も観るけど(テレビで)

井筒和幸監督の言動と創作姿勢ほど賛否がはっきり分かれる監督も居ないと思う。もし彼がテレビタレントとして有名にならなければその作品が注目される事は無い分、色眼鏡で見られる事も無かった筈だ。10年前に「虎の門」という深夜バラエティ番組で超辛口コメンテーターとして映画ファンの注目を浴びた事は、良くも悪くも彼の新作の注目度を高くする事になり、言動と制作の一致の難しさという面では野党の政治家のような立場に彼は常に居る気がする。
私は「虎の門」以前に「戦後生まれが選ぶ洋画ベスト150」というビジュアル文庫本(邦画は残念ながら無い)に寄せられたアンケート回答の文章から彼に強いシンパシーを感じ、深夜放送を録画した「岸和田少年愚連隊」にハマり、途中から観た「虎の門」での新作メッタ斬りの姿勢にも始めはほぼ全面的に支持していて、一時期はほぼ毎週番組を観ていた。しかし彼の言動はすぐにエスカレートして行き、黒澤やチャップリン市川崑など自分が認めていない先輩監督までこきおろす姿勢に不快感を覚えるようになってからは、半分アンチの感情も混じるようになってしまった。
では彼の作品が自分がケナした先輩監督より優れていたか。「虎の門」で知名度が急速に上がった頃に作られた「ゲロッパ!」は、低予算でタイトなスケジュールで作った事が言い訳にならない位に脚本の出来が悪かった(恐らく第一稿のまま撮影に入った)し、続く「パッチギ」は映画賞を総なめにして、自分と沢尻エリカ知名度を高めた作品にしたが、序盤と終盤の乱闘を除けば見所の無い中盤の平板さ、何より一世や二世に比べれば日本で生きやすくなっている筈なのに、日本人を喧嘩のターゲットにして憂さ晴らしをしているようにしか見えない三世のキャラにどうにも感情移入出来なかった。続編の「LOVE&PEACE」は明らかな失敗作だし、「ヒーローショー」はジャルジャルの見事な演技と前半の圧倒的な暴力描写に比べて、後半のヒューマンな展開に彼のキャラクターへの視線の優しさが裏目に出て拍子抜けしてしまった。
以上は私の感想に過ぎないし、彼の基本姿勢である「映画は観客に夢を見せるのでは無く重く苦しい現実を見せる物」に文句を言う気は無い。しかし彼の言動やコラムを読んで常に感じる「中途半端な夢を描いた映画はほんまにクズや。観客は「踊る」や三谷の映画やアニメなんか見んで俺の映画を見るべきや」という姿勢は相変わらず(彼が変わるわけ無いが)で、今でも共感出来る部分はあるが、結局こう結ぶしか無い。「映画監督は黙って映画を撮ればいい」と。