大洗史上最大の作戦⑥

艦娘たちの砲撃を背中に直撃したゴジラは進行を停止し、咆哮した。続けて坂本美緒率いるウィッチーズが重火器で攻撃を開始し、艦娘の赤城と加賀たちが放った矢が零式戦闘機に変身。マリ・ダスピルクエットと彼女に術を教わったウィッチたちの魔力で、艦娘たちの姿は見えなくなっているので、まるで零戦のみが作戦に加わったように見え、西住みほたちも、視聴者も驚かせた。
すると攻撃を受け続けたゴジラの背部が光り出し、口から放射したのと同じ熱戦が多数放射。零戦はたちまち破壊され、ウィッチーズは魔力で防いだ。坂本たちは予想してた進化だが、戦車道チームの西絹代は「まさか、あんな事が」と声を上げる。宮藤芳佳が「坂本さん!」と声を上げると、彼女も「ああ、この世界でもこの威力。甘く見過ぎた!」と呟いた。
赤城たちは新しい矢を放ち続け、ウィッチーズは懸命に熱戦を魔力でやり過ごす。その持久戦が功を奏し、ゴジラの背部熱戦放出が停まった。坂本は愛刀でゴジラのアキレス健の切断を計るが、刀は折れてしまい、ゴジラが彼女に放った熱戦で飛行脚が故障して路上に叩き付けられた。ゴジラは坂本に向けて止めの熱戦を放とうとするが、寸前に口で火が燻ったようになって放射できなくなり、坂本は「やっとでエネルギー切れか」と呟いた。その直後にゲルトハート・バルクホルンとエーリカ・ハルトマンがケーブルをゴジラの足に巻き付け、転倒に成功。坂本は長門に次の作戦への移行を伝達し、長門は大和に大洗マリンタワーへの砲撃を命じた。大和の放った砲弾が撃ち込まれたマリンタワーは予め仕掛けられていた爆薬の発火で崩落し、残骸がゴジラを埋め尽くした。
みほは「作戦最終段階です!」と全隊長車に命令。戦車が一斉にゴジラに接近する。ゴジラは戦車に向けて口を開け、発光を始めたが、これこそがみほ達の狙いだった。前日の作戦会議でみほは、「目標がウィッチの皆さんと艦娘の皆さんの攻撃で熱戦を撃ち尽くしてから私達の作戦を決行します。目標は私たちが境界線を越えれば撃って来るだけの余力は残してると見るべきです。そして目標が口を開けた時に、全ての隊長車の砲弾を発射。目標の内部に攻撃できる唯一のチャンスです」まほが「作戦名は?」と聞くと、みほは「もれなく当てる作戦です」と答えた。島田隊長代理と共にみほの隣に居た副隊長のまほは、一緒に前進しながら「お前の立てた作戦は他の隊長も思い付く。でもお母様が指揮を取り、全隊長がこの町に集まって決行に踏み切ったのは、お前の為だ。だからこれは、お前にしか出来ない作戦だ」と心中で呟いた。
みほが「撃て!」と命じ、全戦車が同時に発射。砲弾を体内に撃ち込まれたゴジラは悲痛な咆哮を上げて立ち上がった。その生命力に驚愕しながらも、みほは全車両に再装填を命じる。しかし冷泉麻子は「もう無駄になったがな…」と力無く呟いた。
そして次第にゴジラの全身が輝き始めた。カチューシャが「どう思うミホーシャ?」と聞くが、誰の目にも最悪の事態しか想像できなかった。みほが「全速後退!爆発する可能性が極めて大です!」と指示すると、他の隊長車もすぐに後退を開始。みほは戦車が横転した大洗チームにも出来るだけその場を離れるよう指示するが、角谷杏は「河嶋が足を怪我してるから間に合わない。戦車の後ろに隠れてやり過ごすしかない!」とみほに伝えた。ゴジラの全身発光の光は増々強くなり、テレビで観ていた生徒たち(黒森峰の直下など)が「隊長ー!」と叫ぶほど絶望的な光景になった。ゴジラが最後の咆哮を上げた瞬間大洗町は一瞬巨大な閃光に包まれたが、町は無傷。ゴジラは消滅した。
外に出たみほはゴジラが消えた事が信じられなかったが、そんな彼女に武部沙織が「みぽりん!私たちゴジラに勝ったんだよ!」と言いながら抱き付いた。みほは戦車から降りた直後に、極度の緊張から解放されてその場にへたり込んでしまったが、肩を貸したのは姉のまほと島田愛里寿だった。まほの「大隊長には最後の仕事が残ってるぞ」という助言で、みほは集まった他校の戦車道チームに涙を浮かべて「皆さんのお陰で勝ちました。本当にありがとうございました!」と言って頭を下げた。
テレビを通じて日本の街中が歓喜に包まれ、テレビ中継を観ていた全ての高校の戦車道部員が安堵感で脱力状態になり、しほと千代は祝杯を挙げた。しかし上空から見ていた坂本は宮藤に「今度もまた、失敗だったな」と洩らした。
降り立った坂本たちはみほに頭を下げる。「何でお詫びなんですか。勝ったじゃないですか。頭を下げるのは私の方ですよ」と言うみほに、宮藤は「私たちは一つだけ隠してた事があるんです。ゴジラは人間が英知の限りを尽くして決行した作戦や、他の人類の脅威との死闘で生命に危機が迫るとワープして細胞をリセットする事は話しましたね。でも奴はその時により巨大化する事で、自分に及ぶ攻撃のリスクをより軽減してる事が分かったんです。ですから私たちが協力して確実に駆逐するには、奴が最も小さい状態、つまり西住さん達が属する世界で決着を付けるしか無かったんです」
みほが「それじゃ、宮藤さんたちが遭遇した時の大きさは…」と尋ね、それに対する宮藤の返答に、戦車道チームは絶句した。
 
別の日本の首都・東京に身長200メートルを超す巨大生物が上陸。あの怪物はこの世界でもゴジラと呼ばれていた。成人になったみほら社会人戦車道連盟と、雁淵ひかりと服部静夏を始めとする新たなウィッチーズ、矢口蘭堂がリーダーを務める巨大不明生物特設災害対策本部の面々はヤシオリ作戦決行の為に万全の準備を整えていた。そして地下施設で宮藤と坂本とウルスラはこの日の為に開発されたメカゴジラを見上げていた。みほは心中で呟く「私たちは負けない。戦う。人間を守る為にっ」
 
大洗史上最大の作戦 -終-